神話、物語

恐るべき古代の「鳥人間」伝説 ~ハーピーから姑獲鳥まで

鳥人間コンテストをご存知だろうか。

毎年7月に滋賀県の琵琶湖で開催される、人力飛行機の競技大会だ。
鳥のように舞う選手たちの勇姿は、我々に勇気と感動を与えてくれる。

だが、神話や幻想の世界においては感動どころか、恐怖と絶望を与えてくるような、忌まわしき「鳥人間」たちの伝承が存在する。

今回は、そんな半人半鳥の怪物たちについて、解説を行っていく。

1. ハーピー

鳥人間

画像 : ハーピー 草の実堂作成

ハーピー(Harpy)またはハルピュイアは、ギリシャ神話に登場する怪物である。

一般的には鳥の体に、人間の女性の顔を持つ姿で表される。
現在の創作におけるハーピーは、美しい女性として描かれるケースが圧倒的に多い。

しかし古の伝承においては、醜く貪欲で、ことあるごとに糞便をまき散らす、極めて下劣で救い難い怪物として語られることもしばしばである。

ギリシャ神話には、次のようなエピソードが存在する。

(意訳・要約)
昔、ピネウスという予言者がいたという。

彼の予言はよく当たると評判だったが、人間相手に力を乱用し過ぎたため、神々の怒りを買ってしまった。
(神の決定である人間の運命は、むやみやたらと暴露してはならないとされたためである)

罰としてピネウスは両目を潰され、視力を失ってしまう。
さらに追い打ちをかけるように、神々はピネウスの住処にハーピーたちを差し遣わした。

ハーピーたちはピネウスの食事を全て奪い取り、さらに食ったそばからブリブリと糞までひり出す始末。
ピネウスは何も食べることができず、餓死寸前であった。

しかしピネウスは自身の運命を予言し、近々助けが来ることを知っていた。
やがて予言通りに、風の神の息子であるカライスとゼテスが現れ、ハーピーたちを追い払った。

さらに彼らの神通力により、ピネウスは失った視力も取り戻したという。

2. 姑獲鳥

画像 : 姑獲鳥 草の実堂作成

姑獲鳥(こかくちょう)は、中国や日本の様々な文献に登場する、鳥の怪異である。

西晋の時代(265~316年)の書物「玄中記」によれば、妊婦が非業の死を遂げた際、姑獲鳥へ変じることがあるという。
夜行性であり、普段は鳥の姿をしているが、羽毛を脱ぐことで人の姿に変身ができるそうだ。

姑獲鳥は荊州(現在の湖北省辺り)に、特に多く生息するとされていた。
胎内の我が子を失った無念からか、この妖怪は子供という存在に只ならぬ執着を持っており、度々人里から赤ん坊を攫っていくという。

また、姑獲鳥は干されている子供の服に、己の血でマーキングを施すことがある。

この服を子供が着ると病気になってしまうため、荊州の人々は夜中に洗濯物を干さないよう、徹底していたとされる。

3. 鴸

画像 : 鴸 草の実堂作成

(しゅ)は、古代中国の妖怪図鑑「山海経」にて言及される怪鳥である。

この鳥は柜山という山に生息しており、その姿はトンビやフクロウといった猛禽類によく似ているが、脚は人間の腕の形をしているという。

この鳥が目撃された地方では、国外追放される役人が増えるとのことだ。

また、明の時代の書物「事物紺珠」によれば、鴸は腕のみならず顔も人間の形をしており、目玉も三つある異形の鳥だと記述されている。

4. ガマユン

画像 : ガマユン public domain

ガマユン(Gamayun)は、スラブ地方(ロシアやベルラーシ)に伝わる神秘の鳥である。

その姿は、美しい女性の顔を持つ鳥の姿で表される。

「イーライ」という西南の海に浮かぶ楽園に、この鳥は生息しているという。

ガマユンは、この世のあらゆる事柄を知り尽くす全知の鳥であり、この鳥が人前に現れることは、神からの何らかの啓示であると考えられていた。
しかしガマユンは、鳥の鳴き声しか発することができないため、そのメッセージが何なのかを理解できる者は、誰一人としていなかったそうだ。

18世紀の書物「Книге естествословной」によれば、ガマユンは色とりどりの美しい羽毛を持つが翼はなく、また、脚もないという。

ではどうやって飛ぶのかというと、約1.25mほどある長い尾を上手に使って、絶え間なく飛び続けるのだそうだ。

この鳥が死んで地面に落ちると、偉人や英雄といった高貴な人物の死の前兆と考えられていたという。

5. 禺彊

画像 : 禺彊 草の実堂作成

禺彊(ぐうきょう)は、中国神話に登場する神である。

海と風を司る神であり、海神としての禺彊は、二頭の龍に乗った半魚人のような姿で表される。

かつて渤海(現在の中国東北部~朝鮮北部~ロシア沿海)の東には、帰虚という海(もしくは谷)が存在し、そこには5つの島がプカプカと、波に流され漂っていたそうだ。

禺疆は島々を安定させるために、巨大なスッポンを差し遣わし、下から支えさせたというエピソードが、古代中国の思想家・列禦寇の著作「列子」に残されている。

また、風神としての禺彊は、両耳と足の裏に青いヘビを携えた、人面の鳥として表される。
この姿での禺彊は荒ぶる疫病の神であり、所構わず人を傷つけるので、大変忌み嫌われたという。

特に禺彊の放つ西北風(冬の冷たい風)は「厳風」と呼ばれ、作物を枯らし、疫病を流行させるため、非常に恐れられたそうだ。

こうした神話は、自然の脅威に対する人々の畏敬と恐怖を物語っている。

参考 : 『神魔精妖名辞典』『Russia Beyond』他
文 / 草の実堂編集部

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